・・・俺の名前は×××××。
別に卑猥だから隠しているわけじゃない。
ネットで本名を晒すのはいかがなものかと思ってこうしている。
ハンドルネーム(HN)はクロだ。
チャットのHNをそのままもってきただけで、特に深い意味はない。
さらに言うと、ブログの名前もチャットで適当に決めた。
故に、最近自分のHNとブログの名前に不満を感じている。
高校進学を機に、ブログごと大幅リニューアルしてやろうか。
そんなことを思う俺は、受験生だ。
「受験生」。
あぁ、そうだとも。俺は受験生だ。
なんてもどかしいのだろう。
おかげで大好きなギターもろくに弾けやしない!
思えば、推薦入試でつまづいたのがいけなかったんだ。
あの面接官たちに、俺の魅力を伝えきれなかった。
ちくしょう!
おかげで俺は毎日夜遅くまで机に向かわなければならないんだ!
クラスでは、既に高校行きのキップを手にした奴らが騒いでいやがる。
くそったれ!
まだ第一志望が決まっていないやつへの配慮とか考えられないのか!
・・・だが、悪態ばかりついていても仕方が無い。
行動しなくちゃいけないことくらい、俺はちゃんとわかっているんだぜ?
そうだ。一般入試で合格してしまえばそれでOKなんだ。
24日からは、毎日ギターを弾いていられる。
インターネットもし放題。堂々とカラオケに足を運ぶことだってできる。
あぁ・・・なんて素晴らしいのだろう!!
だから俺は、その素晴らしき日々のために、
「今」努力しなくちゃいけないんだ!
さぁ、動き出そう。
・・・俺の名前は×××××。
ハンドルネームはクロだ。
色々と細かいくだりは、すぐ上に書いたから割愛させていただく。
人が1人、無理をすれば2人ほど入れそうな狭い部屋。
その部屋に設置された座席にこしかけ、
一心不乱に本に目を走らす少年がいる。
早い話が、俺だ。
家にある他の部屋と比べると、遥かに狭い部屋。
俺は必死に本を読んでいた。
周囲と隔絶されたその空間は、驚くほどの集中力を俺に与えてくれる。
受験まで、既に残り1週間を切った頃から、
俺はこの空間にこもることが多くなった。
やっぱり、集中できるスペースへ自然と足がいってしまうのだろう。
そしてそれは大成功だ。
こもり始めてそろそろ30分以上経つが、
未だに集中力が途切れる事は無い。
むしろ、俺は今自分がしている行為に快感を覚えるようになっていた。
ページをめくることが、目を走らすことが、楽しくて楽しくてしょうがない。
俺の心は晴れやかだった。
また1枚ページをめくる。
狭い部屋に、ページのめくる音が響いた。
あぁ・・・、どうしてこんなにも楽しいのだろう!
ひょっとしたら、ギターを弾くことよりも楽しいのではないか?
また1枚、俺はページをめくった。
ドンドンドン!!
狭い空間に、大きな音が響いた。
ドアを誰かが叩いているようだ。
ちくしょう。いったい誰なんだ?俺の邪魔するやつは。
くそったれめ。集中力が途切れたらどうするつもりだ。
だが悪態をつく俺なんて気にも留めないかのように、
その音はやまなかった。
ドンドンドンドン!!
さっきよりも叩く間隔が短くなった、大きな音が響く。
あぁ・・・ちくしょう。
しばらく続いた俺の集中力も、これが限界らしい。
「うるせーっ!!」
・・・ちくしょうめ。俺は本から顔を上げ、ドアに向かって叫んでいた。
すると、その声に負けないほど大きな声で、
ドアの向こうから声が返ってきた。
「開けてぇええええええ!!!!」
・・・その声の主は、俺の弟だった。
まったく、いったいなんなんだ?
弟なら、兄の集中力を途切れさすようなことはしないもんだろう。
俺はまた悪態をついた。
ドンドンドンドン!!
ドアを叩く音はいっこうにやむ気配を見せない。
「うるせーっ!!なんなんだよっ俺の邪魔するなよ!!」
「そんなこと知らないよ!早くここ開けてってば!!」
「うるせーうるせー!俺の集中力を途切れさすんじゃねーっ!!」
ドア越しに兄弟の口論が始まる。
くそったれ。どうやら、あいつは俺からこの部屋を奪おうとしているらしい。
ふん、そんなことさせるものか。
「バーロー!俺はもうすぐ受験なんだ!!
そっとしておいてくれよ!!」
言ってやった。
この時期、「受験だから」と言えば大概の主張は通ってしまうものだ。
・・・だが、こいつは違った。
「受験がなんだ!そんなことより早くそこから出てよ!!」
退くどころか、さらに声を荒げて反抗してきた。
くそっ、こいつ、タダモノじゃないな。
「聞こえてんの!?早くそっから出てよ!!」
「うるせー。あんま吼えるなってば。」
冷静に言い返す。
こういうのは、冷静さを欠いた方が負けると相場が決まっているんだ。
「早く!」
「サーセンww」
「うがーっ!!」
ドアを叩く音が強くなった。
もしかしたら、ドアが壊れてしまうんじゃないだろうな?
少し心配になる。
ドンドンドンドン!!
やつはおかまいなしにドアを叩き。叫ぶ。
「早くしないと漏れるって、
何回言えばわかるの!?」
「サーセンww」
・・・絶叫する弟。ヘラヘラ笑う兄。
もしかしたら、既に気付いていた方もいるかもしれない。
そう、ここは我が家のトイレだ!
「いやぁー、トイレって本当にいいもんですね。」
「~~~~ッ!」
「どうしてこんなに集中できるんだろうね。」
「~~~~・・・ッ!!」
「いやぁ、集中するには本当に最適なスペースで(ry」
「知るかぁあああああ!!」
ガンガンガンガン!!
トイレのドアを叩く音がさらに強くなった。
「見たまえ、最高のショーだとは思わんかね?」
トイレの便座の上でムスカのマネをしてみる。
「うがぁーっ!!」
弟の逆鱗に触れたらしい。
トイレのドアがさらにきしみ始める。
「ちくしょーっ!」
弟の叫び声がした。
・・・すると、辺りが静まり返った。
なにが起こった?
俺はしばらく状況をつかめなかった。
だが、すぐに俺は今起ころうとしていることを理解した。
まずい!!カギを押さえなければ!!
・・・だが、時既に遅し。
俺が焦り始めたのは、「カチリ」という音がした後だった。
篭城の最後の防衛線、「トイレのカギ」が破られてしまったのだ。
「アッー!!」
・・・・・・。
・・・。
少し、今起きた事についての説明をしよう。
時間もあまりない。簡潔に述べる。
我が家のトイレのカギは、表から綿棒を突っ込めば開いてしまうのだ。
もっとしっかり言うならば、綿棒の先の、「綿」の部分。
あれをハサミで切り取り、残った「柄」の部分を表からカギ穴に突っ込めば、
あらフシギ。トイレのドアは簡単に開いてしまうのだ。
これ、もうカギとして機能してないよね。
以上でカギが開いたことについての説明を終わる。
・・・さて続きだ。
「アッー!!」
トイレのドアが勢いよく開く。
新鮮な空気が染み込んでくるのがよくわかった。
そして、俺の目の前には弟が立っている。
阿修羅のような形相だ。
こんな顔でトイレのドアを叩いていたのか、こいつは。
「・・・なに、してんの?」
先に問いただすのは、弟だ。
その顔は、呆れているような、怒っているような、複雑な表情だった。
「え、っと・・・。」
弟の問いに、少し動揺する。
「なんでそんなカッコで便座に座ってるの?」
弟が静かに言う。
さっきまでの勢いは何処へ言ったのだろう。
ちなみに、俺はジーンズをはいたまま便座に座っている。
「いやぁ、ほら、トイレの中は集中できるってよく言うじゃん?」
頬をひきつらせながらしゃべる俺。
「・・・集中してなに読んでるわけ?今手に持ってるモノはなに?」
弟の顔もひきつっていた。
・・・弟の尋問に、俺は答えていかねばならないようだ。
「えっと・・・『週刊少年ジャンプ』・・・・・・です。」
「なに?それ。」
「少年の心を持ったヒトたちに夢と希望を届ける素晴らしい雑誌・・・です」
「・・・なんでそんなもん読んでるの。」
「えっと・・・」
「・・・はやくトイレから出て。」
「えー」
「早くしろ!!」
弟が、俺の手からジャンプをひったくる。
「あッ!!待って!!
To LOVEるがまだ残ってるんだ!最後まで楽しみに残しておいたんだ!!」
「知るかぁああああ!!」
弟はそのままジャンプを遠くに投げた。
「アッー!!」
呆然とする俺。
なにもかも失った俺を、弟はさらに責める。
「トイレから、出て。今すぐ。」
「はい・・・。」
「早く。」
弟に蹴り飛ばされながら、転がるように俺はトイレから強制退去させられた。
兄としての威厳、か。
そんなことを意識していた時期が、俺にもありました。
くそったれめ。あの野郎、俺のスネを蹴りやがった。
ちゃんと蹴る場所っていうのを心得ていやがる。
・・・だがそんなことより、今は「To LOVEる」だ。
俺は投げ捨てられたジャンプを拾い、その場で読み始める。
俺の名前は×××××。
ハンドルネームはクロ。受験生だ。
あぁ、行動しなくちゃいけないことくらいわかってるんだぜ?
そう、いわばこれは、「戦士のつかの間の休息」なんだ。
ちょっと一休みするくらい、いいだろう?
・・・そんな戦士の休息は、それから4~5時間続いた。
あれ?こんなオチ、前にもなかったか?
・・・いいや、気にしたら負けだ。
このくらいで、今日の活動報告はお仕舞にさせていただく。
弟につけられた傷の手当てが残っているんだ。
俺の名前は×××××。
ハンドルネームはクロ。受験生のはずだ。